52ヘルツのクジラという耳慣れない言葉に深い青色を基調とした表紙。
2024年に杉咲花さん主演で映画化が決まった町田そのこさんによる小説『52ヘルツのクジラたち』を読みました。
この作品は2021年に本屋大賞を受賞しています。
装丁の雰囲気から繊細な人間模様を描いた作品ではないかと勝手にイメージして読み始めたのですが、主人公の女性が実母からネグレクト(育児放棄)を受けて育っているなどなかなかハードな内容でした。
子どもに対する問題だけではなく思うように生きられない大人の苦しみも描かれていて、それぞれの登場人物がどうなっていくのか気になってすぐに読み終えてしまいました。
今回は『52ヘルツのクジラたち』を読んで感じたことや気になった点を紹介していきます。
『52ヘルツのクジラたち』あらすじ
過去を断ち切って東京から大分の海辺の町へと移住してきた三島貴瑚は、移住先で13歳の少年と出会う。虐待を受けていた少年を見た貴瑚は、自身のかつての姿と少年を重ね合わせて、「聞き逃した声に対する贖罪」として少年を助け出す試みを行う。
Wikipedia 52ヘルツのクジラたちより引用
『52ヘルツのクジラたち』登場人物
- 三島貴瑚 26歳。この物語の主人公。実母から育児放棄をされて育ち、成人しても義父の介護を一人でさせられていた。死のうと思っていたところを高校時代の親友・美晴と初対面だった岡田安吾(アンさん)に救われる。ある出来事がきっかけで東京から大分へ移り住むが、そこで一人の少年と出会う。
- 少年 13歳。女の子と間違うような綺麗な顔立ちをしている。母親から「ムシ」と呼ばれ虐待を受けており、言葉を話すことができない。貴瑚からは「52」と呼ばれるようになる。
- 岡田安吾 通称アンさん。美晴の会社の先輩。初対面の貴湖のことをキナコと呼ぶ。貴瑚に対して非常に親身になり、親の虐待から救い出す。
- 牧岡美晴 貴瑚の親友で自身も再婚家庭の子どもであるため、貴瑚とは気が合う。高校卒業後に連絡が撮れなくなった貴瑚を心配していたが、安吾とともに貴瑚を救い出す。
- 村中真帆 貴瑚が家の修繕を依頼した業者の男。思ったことをすぐ口に出してしまう性格だが、根は優しい。貴瑚に好意を持ち食事に誘うなど関わりを持とうとする。
届かない52ヘルツのクジラの声
![](https://okomoriblog.com/wp-content/uploads/2023/10/gabriel-dizzi-WPXxp36tkHQ-unsplash.jpg)
貴瑚が眠れないときに聴くのが52ヘルツのクジラの声です。
『52ヘルツのクジラ』とは非常に珍しい52ヘルツという高音で鳴くクジラのことで(通常クジラの声の高さは10から39ヘルツ)、鳴いてもほかのクジラに聴こえていない可能性が高いことから世界で一番孤独なクジラと言われているそうです。
なんだか切ない話ですね。
貴瑚も少年も虐待されていることを周りに助けを求められずにいましたが、心のなかでは「苦しい」「助けてほしい」と叫んでいたと思います。
でもその叫びは誰にも届かない。
52ヘルツのクジラとは貴湖や少年を表わす言葉でもあると感じました。
アンさんに出会って自分の心の声を聴いてもらえた貴瑚は、今度は自分が少年の声を聴こうとします。
貴湖が少年を虐待から救うことができるのかがこの物語の軸となっています。
アンさんという人
この作品のキーパーソンは私はアンさんではないかと思っています。
アンさんは初めて会った貴瑚に対して、どうしてそこまでと思うほど優しく接します。
貴瑚が親切にしてくれる理由を尋ねたのに対しアンさんは「可愛いから」と答えますが、このアンさんという人はだからといって貴瑚に交際を迫ったり一定以上に距離を詰めるような人ではないんですね。
やがて貴瑚が社会人になって彼氏を紹介したところからアンさんの様子が変わっていきます。
真相を知ると今までのアンさんの貴瑚への態度や言葉のかけ方はそういうことだったんだなとわかるのですが、そこはぜひ小説を読んでみてください。
主人公、モテすぎやろ・・・。
これは物語とは関係のない私の感想なのですが、主人公の貴瑚のモテっぷりには「これは小説だから!現実はこうはいかないんだからねっ」と少々うらやましかったです。
以下、作中で貴瑚に好意を寄せている人リストです。
- 少年 貴瑚の前に突如現れ、貴瑚を頼るようになる。終盤にはお互いにずっと一緒にいたいと思うまでに関係性が深まる。
- アンさん 貴瑚を虐待家庭から救った人。はじめから一貫して貴瑚に献身的。好意は隠さないが相手に迫るわけではない。貴瑚にとっては『アンパンマン』的存在。
- 主税 貴瑚の社会人時代の彼氏。育ちのいいエリートで自分に自信もある。ほしいものは手に入れるタイプで嫉妬深い。
- 村中 恋人として今の貴瑚にとって一番現実的な相手かもしれない。良いやつ。ガツガツしているかと思いきや乗り気でない相手に対して「お友達から」と配慮できるタイプ。
- 美晴 ダークホース。彼氏はいるが仕事を辞めて大分まで貴瑚を心配して追いかけてくる。明るい。育ってきた環境が近いので分かり合える。
男にも女にも子どもにも好かれる貴瑚さん、すごいですね。
大分に移り住んでからは無職なのにさっそく村中に好かれているし。(無職がモテるはずがないというのは偏見ですね。でも同じく私も無職ですが村中みたいな人現れないよ・・・?)
よほど魅力的な容姿をしているのか(杉咲花さんだもんな)、放っておけない雰囲気を出しているのか。
主税が貴瑚に惹かれていく様子はきちんと描写されていたのでわかるんですけどね。
美晴にしても親友とはいえ、高校卒業時に続いて貴瑚に2度も音信不通にされても追いかけてくるのはすごいなと。
私にはそういう友人はいないので、ここまで心配してくれる人がいる貴瑚は恵まれているなとも思います。(その分大変な思いもたくさんしてきていますが)
貴瑚と周囲の人々との関わりもこの作品の見どころです。
まとめ
映画のキャストはまだ杉咲花さんしか発表されていませんが、少年役を誰が演じるのか気になるところです。
ふだん中学生くらいの子と関わることがないので少年の脳内イメージが難しく、私のなかではもっと幼い男の子のイメージで読んでいました。
アンさんもわりと難しい役だと思うので、キャスト発表されるのが楽しみです。
物語として「めでたしめでたし」で終わるのではなく、現実に虐待されている子と知り合ったときに何ができるのか考えるきっかけになるような作品でもあります。
ぜひ読んでみてくださいね。
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