映画『あしたの少女』感想

2017年に韓国で、大手通信会社のコールセンターで実習生として働いていた高校生が自殺した事件がありました。

事件をもとに製作されたのが、今回紹介する『あしたの少女』という作品です。

映画は2部構成で、前半はコールセンターで実習生として働いていた女子高校生・ソヒが理不尽な業務や賃金の未払いに疲弊し自死に至る過程が描かれ、後半は女性刑事・ユジンが主人公となり、ソヒの事件を捜査していくストーリーになっています。

映画公開後は労働問題について考える輪が広がり、法を見直す動きにもつながりました。(参考サイト:映画『あしたの少女』オフィシャルサイト http://ashitanoshojo.com(2023‐01‐03) )

映画の力が社会を動かしたんですね

目次

『あしたの少女』作品情報

監督チョン・ジュリ
公開2023年
製作国大韓民国
年齢制限PG‐12
上映時間138分

原題は『次のソヒ』です。

ソヒの身に起きたことは決してソヒだけの問題ではなく、誰もがソヒになり得るということが伝わってくるタイトルですね。

『あしたの少女』登場人物

  • キム・ソヒ(キム・シウン) 完州(ワンジュ)生命科学高等学校の3年生。ダンスが好き。勝ち気で曲がったことには立ち向かっていくタイプ。
  • オ・ユジン(ぺ・ドゥナ) ソヒの事件を捜査する全州(チョンジュ)警察署の刑事。
  • コ・ジュニ(チョン・フェリン)ソヒの友人。動画配信者。
  • パク・テジュン(カン・ヒョノ) ソヒの先輩でボーイフレンド。工場勤務。
  • カン・ドンホ(パク・ウヨン) ソヒの男友達。

『あしたの少女』キャストについて

キム・シウン(キム・ソヒ役)

キム・ソヒを演じたのはキム・シウンさんです。

1999年1月19日生まれのシウンさんは、「あしたの少女」での演技が高く評価され、第59回百想芸術大賞において新人女優賞を受賞しています。

百想芸術大賞というのは韓国の総合芸術賞で、韓国のゴールデングローブ賞とも称されています。

フレッシュな演技で、無限の可能性があると感じさせる高校生の役がとても似合っていました。

ぺ・ドゥナ(オ・ユジン役)

女性刑事ユジンを演じるぺ・ドゥナさんは1979年10月11日生まれで、チョン・ジュリ監督の作品に出演するのは「私の少女(2014年)」に続き2回目です。

「私の少女」でも刑事の役でした。

日本の作品では是枝裕和監督の「空気人形(2009年)」、「ベイビー・ブローカー(2022年)」にも出演していて、「ベイビー・ブローカー」ではこれまた刑事を演じています。

このぺ・ドゥナさんですが、前の職場の職員さんに雰囲気が少し似ていて、つい目で追ってしまいました。

今作ではパンツにショートブーツのスタイルで、スレンダーな体型が際立っています。

上着に手を突っ込んで歩くシーンが多いんですけど、その姿が様になるんですよね。

『あしたの少女』あらすじ

高校生のソヒは、担任教師から大手通信会社の下請けのコールセンター運営会社を紹介され、実習生として働き始める。しかし、会社は顧客の解約を阻止するために従業員同士の競争をあおり、契約書で保証された成果給も支払おうとしなかった。そんなある日、指導役の若い男性チーム長が自殺したことにショックを受けたソヒは、自らも孤立して神経をすり減らしていく。やがて凍てつく真冬の貯水池でソヒの遺体が発見され、捜査を担当する刑事ユジンは、彼女を自死へと追いやった会社の労働環境を調べ、いくつもの根深い問題をはらんだ真実に迫っていくのだった…。

引用元 あしたの少女 – 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

『あしたの少女』感想

ここからは『あしたの少女』を観た感想を紹介していきます。

ソヒ役・キム・シウンの表現力

ソヒを演じたキム・シウンさんの演技力が素晴らしく、ソヒという女の子が実在していて、そのドキュメンタリーを観ているかのような感覚でした。

序盤の生き生きとした等身大の女の子の姿から、仕事で追い詰められていく姿まで時間の経過を感じながら観ることができます。

印象的だったのは死の直前にソヒが学校で担任と面談する場面です。

成果給が支払われないことに抗議をしたソヒは、貧乏だから金に汚いと言うチーム長(自殺した前チーム長に代って配属された新しいチーム長)に殴りかかってしまい、3日間の出勤停止処分にされていました。

担任は必死に開拓した就業先なのだから、しっかりやるようソヒを強めに諭します。

ソヒは担任に自分がやっている仕事の内容を知っているかと尋ねますが、「顧客をサポートする仕事だろう?」と返され、あとは黙って言われるがままになっていました。

学校は就業率を上げることばかりを気にしていて(就業率によって補助金が決まるため)、生徒がどんな仕事をしているか把握しようとしていませんでした。

ソヒは最後にゆっくり顔を上げますが、その目からは涙が溢れています。

その表情はとても憔悴していて、それでも仕事に行くことを勧める担任は教育者として本当にひどいと思いましたね。

責任逃れをする人々

ソヒの死後、刑事のユジンはソヒがどんな状況で働いていたのか調べるため、企業や学校、教育庁を訪ねます。

しかし、いずれもソヒが亡くなったことに責任を感じるどころか、ソヒが問題児だったのであって自分たちは被害者だという姿勢を見せます。

企業側はそんなに辛いなら辞めればよかったと言いますが、辞めようとすれば学校から就業率が下がると責められるので、学生は簡単に辞めることはできません。

企業や教育機関に問題があることは明らかですが、私はソヒの両親にも親として疑問を感じました。

死の数日前にソヒは自分で手首を切り、両親に仕事を辞めてもいいかと聞く場面がありますが、このとき両親は聞こえていない感じ(聞こえていないふり?)で、ソヒもそれ以上は何も言いませんでした。

普通なら娘が手首を切ったら何事かと追及すると思うのですが、ソヒの両親はわりと淡々としているように見えたんですよね。

ソヒの死後、時間外労働を訴える父親に、ユジンはソヒが手首を切ったときに何か言っていなかったかと尋ねます。

一瞬、虚を突かれたような表情になって「何も知らなかった」「何も言っていなかった」という父親を見て、両親もソヒの異変にどこかしら気付いていて見て見ぬふりをしていたのではないかと思いました。

ソヒも下請けとはいえ大企業で働いていると思っている両親の期待を感じて、遠慮している部分もあったのではないでしょうか。

韓国の若者の生きづらさ

映画にはソヒの友人も登場します。

ジュニは学校に行かず動画配信をして生活していますが、食べては吐いてしまう描写があったり、配信中に中傷コメントを見て不安定になる姿を見せたりと、危うい感じがあります。

ソヒのボーイフレンドのテジュンもダンスが上手く活発に見えますが、職場でからかわれている姿をソヒが見てしまう場面があり、順風満帆ではない様子が伝わります。

韓国の社会問題について詳しくないのですが、若者が生きていくのに大変な状況があることは映画を観ていて窺えました。

まとめ

『あしたの少女』を観て、韓国の教育や就業のシステムについてもっと詳しく知りたくなりました。

同じような問題は韓国だけでなく日本でも起きていると思うので、考えるきっかけとして色々な人に観てもらいたいなと思います。

ユジン刑事を観て、ぺ・ドゥナさんに惚れてしまったので、ほかの出演作品も観たらまた感想を書きたいです。

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この記事を書いた人

駆け出しのブロガー。30代女性。気分変調症で療養中。社会復帰の一歩としてブログを始める。前職は医療事務。読書と映画鑑賞が趣味でオススメの作品を紹介。

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