役所広司さんがカンヌ国際映画祭で主演男優賞を獲得したことで話題の映画『PERFECT DAYS』を観てきました。
監督はドイツを代表する世界的な映画監督ヴィム・ヴェンダースです。
ヴィム・ヴェンダース監督は日本の映画監督である小津安二郎を敬愛し、東京の街や小津安二郎の足跡をたどるドキュメンタリー映画『東京画』(1985年)を製作しています。
私も小津作品が好きなので、ヴィム・ヴェンダース監督が日本を舞台にどんな物語を魅せてくれるのか楽しみでした。
PERFECT DAYS 作品情報
監督 | ヴィム・ヴェンダース |
公開 | 2023年 |
製作国 | 日本 |
上映時間 | 124分 |
役所広司さん演じる平山が清掃するトイレは「THE TOKYO TOILET」プロジェクトのトイレです。渋谷区内17か所に設置されており、16人のクリエイターの個性を感じられる造りとなっています。
公共トイレは汚くて臭いのが当たり前というイメージがついていましたが、作中に出てくるトイレはおしゃれで清潔感もあって使ってみたいと思いました。
PERFECT DAYS あらすじ
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。
引用:PERFECT DAYS : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)
PERFECT DAYS 登場人物
- 平山(役所広司)トイレ清掃員。古いアパートで一人暮らしをしている。趣味は読書や木々の写真を撮ること。無口で考えていることがわかりにくい。
- ホームレス(田中泯)公園に住み着いたホームレス。太陽の光に手を伸ばしている様子を平山は仕事の合間に見る。田中泯さんなので、どこか神々しさというかただものではない感じが漂っていました。
- ニコ(中野有紗) 平山の姪。家出をして、平山を頼ってくる。
- タカシ(柄本時生) 平山の同僚。いい加減な性格で仕事態度も真面目とはいえないが、平山は憎めないものを感じている。金がないとしょっちゅう嘆いている。アヤに夢中。
- アヤ(アオイヤマダ) ガールズバーで働いている。タカシに好かれているが、タカシのことは好きでも嫌いでもない。平山がカセットテープで聴く古い音楽を気に入る。
- ケイコ(麻生祐未) 平山の妹。平山と父親が衝突したときに何もできなかったことを負い目に感じており、十数年兄と会えていなかった。実家近くで裕福な生活をしている。
- ママ(石川さゆり) 平山が通う居酒屋のママ。平山に好意を持っているが、どうこうする年でもないと思っている。
- 友山(三浦友和) ママの元夫。病気になったことがきっかけで、昔の結婚相手に会いに来る。
PERFECT DAYS 感想
ここからは『PERFECT DAYS』の感想を書いていきます。
ネタバレになりますので、見たくない方はご注意ください。
トイレ清掃員という仕事
平山の仕事はトイレ清掃員です。
黙々と作業し、途中で人が入ってくれば作業を中断して忍びのように待ちます。
決められた時間に担当のトイレを回らなくてはならないので結構忙しそうですが、大切な仕事なのに人から感謝されることはあまりないのかもしれないと感じました。
同僚のタカシは「こんな仕事」といった風で、スマホ片手に作業し、平山が熱心に取り組むのが理解できない様子。
平山は手を抜くことなく、手製の掃除用具をたくさん車に積んでいます。
ある日、平山はトイレに男の子がいるのを見つけます。
「お母さんと一緒に来たの?」と一緒に母親を探そうとする平山でしたが、すぐにベビーカーの赤ちゃんを連れた母親が現れます。
一緒にいた平山には目もくれず、息子を一生懸命注意する母親は余裕のない様子。
小さい子どもを2人連れて歩く大変さは母になったことのない私にはわかりませんが、平山とつないでいた手を即座にシートで拭く姿にはちょっと悪意を感じてしまいました。
お母さん、見つけてくれたお礼くらい言えよ~。
淡々としつつ、豊かな平山の日常
平山の1日は決まったルーティンで流れていきます。
甘い缶コーヒーを朝食代わりに車を発進し、いつもと変わらないスカイツリーを横目に見ながら仕事場へ。
日中はトイレ掃除を黙々とこなし、昼は神社の境内でサンドイッチをつまみ、木々をカメラに収める。
仕事が終わると銭湯で汗を流し、馴染みの居酒屋でひとり酒を嗜む。
夜は眠気が訪れるまで布団で横になりながら古本屋で買ってきた本をめくる。
身近にないせいか、銭湯が画面に出てくると心がくすぐられます。
役所さんの体が年相応で良かったです。
平山は体付きをそんなに気にするタイプには思えないので、ムキムキに鍛えてたらちょっと合わないなあと。
平山の利用する店の店主が無口な平山のことを自然に受け入れているのもいいなあと思いました。
作中に出てきた甲本雅裕さんが店主をしていた地下の居酒屋さんは行ってみたいですね。
店が忙しくても「今日もおつかれさん」と必ず声をかけてくれる店主がいて、何も言わなくてもいつものお酒を出してくれる。
一人暮らしでも帰っていける場所があるみたいで、こういった行きつけの飲食店を持っている大人は素敵だなと思いました。
古本屋の店主の声が特徴的だと思ったら、ポケモンのニャース役やシャーマンキングの小山田まん太役でおなじみの犬山イヌコさんが演じられていたんですね。
ほかにも研ナオコさん(野良猫と遊ぶ女性)や片桐はいりさん(電話の声)が出演されていたのですが、気付けませんでした。
平山の過去
ある日、平山のアパートの外階段に知らない女の子が座っていると思ったら、平山の姪のニコでした。
大きくなっていたため、平山は気付けなかったのです。
鎌倉の家から家出してきたというニコを泊めることになった平山。
平山がふだん使っている布団を借りて寝ることになったニコですが、現実だったらおじさん臭がしてキツそう(役所さんはきっといい匂いがするのでしょうが)と余計なことを考えてしまった私です。
無口な平山が姪に対してどう接するのか気になりましたが、普通にいいおじさんでした。
出勤時にニコを起こさないようにそおっとそおっと歩く姿も優しいなと。
ニコを迎えに来た妹のケイコは平山に父親に会いに行ってほしいと声をかけます。
もう昔のようなことは言わないと思うからと。
麻生祐未さんは好きなので登場が嬉しかったです。
平山と父親の確執は詳しくは語られませんが、お抱え運転手付きで現れたケイコを見るに平山家は裕福だということがわかります。
父親に生き方を強制されて反発して出ていったとかいう感じなのかなと想像しました。
同じような日の繰り返しでも何かは変わっている
平山が顔を出す居酒屋はもう1件あって、そこは石川さゆりさん演じるママが1人で切り盛りしています。
平山を贔屓しているという他の客に対して、うちはどのお客にも平等だというママ。
てっきり平山のほうがママに好意を持っているのだと思って見ていたのですが、公式によるとママも平山に好意を持っているようです。
ある日、平山は店でママが知らない男と抱き合っているのを偶然見てしまいます。
店のドアを半開きにして抱き合っているのは、いかにも映画的な演出だなと思いました(笑)
普通は閉めるだろうと。
平山は自転車で急いで走り去り、やけ酒なのでしょうか缶ビールと煙草を買って川沿いで飲んでいました。
そこへ追いかけてきたのが先ほどの男。
自転車で逃げたのに追ってこられるわけないだろうと、いちいち映画のご都合展開にツッコミを入れつつ見守っていると、男はママの元夫だと名乗ります。
元夫の友山は再婚していますが、病気で自分の余命が短いことを知り、昔の結婚相手に今までのお礼を言いたくなって会いにきたということでした。
静かに聞いている平山に、影は2つ重なると濃くなるのか、人生はわからないことばかりでわからないまま終わってしまうと語る友山。
三浦友和さんの年を重ねた男だからこそ出せる哀愁漂う演技が印象的です。
2人は平山の提案で実際に2人並んだら影の色が変わるのか試します。
色が変わったという平山に対し、変わってないという友山。
やけに一生懸命になっている平山は言います。
「何も変わらないなんて、そんな馬鹿な話ないですよ」
私はこのセリフが余命を宣告された友山への励ましの言葉に聞こえました。
同じような日々でも空の様子や木々から漏れる光の加減が毎日変わるように、病気だってよくなるかもしれない。
その後、初老の男性2人で影踏みに興じるシーンもよかったです。
まとめ
取り立てて大きなドラマがない日常の繰り返しが描かれる作品が好きな私にとっては、『PERFECT DAYS』はとても好みの作品でした。
日々を過ごしているとあれが足りない、これが足りないと思いがちですが、平山を見ていると「足るを知る」ことを考えさせられます。
1回といわず何回でも楽しめる映画だと思いますし、色々な人の人生にそっと寄り添ってくれる作品だと感じます。
それでは、また。
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