突然ですが、私は少しひねくれているところのある人間です。
たとえば「人気作家や人気アーティストは私一人応援しなかったところでたくさんファンがいるんでしょ」となんだかよくわからん理由で、話題の作品から遠ざかったりすることがあります。
今回紹介する『流浪の月』の作者、凪良ゆう先生はたぶんその一人でした。
凪良先生といえば書店やメディアでもよく目にする人気作家さんですが、今まで1冊も読んだことがありませんでした。
しかし今回たまたま『流浪の月』の本を見かけて、そういえば広瀬すずと松坂桃李主演で映画化してたっけと読んでみることにしたのです。
感想を一言でいうと、始めから終わりまで
「更紗(ヒロインの名前)にイライラするっ でも先が気になってページをめくる手が止まらないいいぃっ」
でした。
更紗の境遇を思えばそうなるのも当然だと思おうとする一方で、彼女の取る行動の一つ一つにイライラしてしまうのです。
それが『流浪の月』という作品の面白さでもあるわけですが。(広瀬すずがどんな感じで演じていたのか近いうちに映画版を観たい)
今回はそんな非常に印象的だった小説『流浪の月』の感想を大きなネタバレにならない程度に紹介していきます。
- 生きづらさを感じている人
- マイノリティを描いた物語を読みたい人
- 複雑な人間関係にハラハラしたい人
『流浪の月』あらすじ
更紗は子どもの前で日常的にキスをするような仲睦まじい両親のもとに育った。
母親は早い時間から飲酒したり、気の向いたときにしか料理を作らず、ときに夕飯がアイスクリームだったりといった一風変わった家庭だったが幸せを感じていた。
一方で学校では浮いている存在でもあった。
あるとき父親が病気で死に、母は新しい男性と出て行ってしまう。
更紗は母方の伯母に引き取られるが、従兄の孝弘から夜になると体を触られるようになる。
更紗は少しずつ周りの友人と合わせるようになっていく。
ある日、友人と公園で遊んでいるとベンチに座って読書をする若い男を見かけた。
男は毎日のように公園にいてロリコンと噂されていたが、家に帰りたくない更紗は同じように居場所がないように見える男の存在に安心を覚えるようになる。
雨が降り始めた日も更紗は帰らないとと思う一方、公園で動けずにいた。
そんなとき男がビニール傘を差しだし、帰りたくないという更紗を自身のマンションに招いた。
男は佐伯文と名乗り、自分を文と呼ぶように更紗に言う。
2人はそこから2か月間共同生活を送るようになるが、更紗はその間に行方不明児童として大々的に報道されていた。
ある日2人は更紗の希望で動物園に行くが、報道で顔を知られていた更紗は周りの人間に見つかってしまう。
2人は警察官によって引き離され、更紗が文を呼んで泣き叫ぶ姿はネット上に拡散されることに。
文は小児性愛者の誘拐犯として刑務所に入れられ、更紗は世間から誘拐されてひどいことをされたと行く先々で思われるなどお互いにレッテルを貼られながらその後を生きていく。
そして15年の月日が流れ、24歳になった更紗は文と偶然再会する。
『流浪の月』主な登場人物
- 家内更紗(24) この物語の主人公。保護されたあと伯母の家に戻るが、孝弘を酒瓶で叩きつけたことで児童養護施設で育った。ファミリーレストランでアルバイトをしており、恋人と暮らしている。文は自分におかしなことをしていないといくら訴えても周りに理解してもらえず、周りからの哀れみや善意を微笑みつつも受け流すようになった。
- 佐伯文(34) 現在は南に改姓。会社経営をしている父、教育と福祉に熱心な母、優秀な兄とともに育つ。育児書どおりに厳格に育てられ、更紗と出会ったことで自由な生活を知る。出所した現在は家族と離れて暮らし、『calico』というカフェで働いている。小児性愛者であると思われていたが、大人の女性の恋人がいる。
- 中瀬亮(29) 更紗の恋人で同棲している。真面目な好青年タイプだが、父のDVが原因で母が元の恋人の元に去ってしまったことがトラウマ。自身もDV気質。文と再会したことで今までと様子が変わっていく更紗に暴力を振るうようになる。
- 谷あゆみ 文の恋人。顎で切り揃えられた黒髪のボブヘアが印象的な女性。文に会うために『calico』に通う更紗のことをストーカーだと不審がる。
『流浪の月』感想
ここからは『流浪の月』を読んだ感想になります。
![](https://okomoriblog.com/wp-content/uploads/2023/09/moon-7362632_1280.jpg)
登場人物の行動を理解するのが難しい
「流浪の月」の登場人物は更紗と文をはじめ皆それぞれに傷を抱えています。
だからなのかみんな生き方が不器用ではっきり言って情緒が安定している人物は出てきません。(文の店が入っているビルのオーナーさんくらいではないか・・・?)
物語はほぼ更紗の視点で進んでいきますが、文と偶然再会してしまってからの更紗に私はイライラモヤモヤしてしまいました。
子どもの頃に文に救われたというのはわかるし、「文に覚えていてほしい」「文に幸せでいてほしい」という感情もわかるのですが、恋人がいる身で文の働くカフェに何度も足を運ぶのはどうなのかなと思ってしまいました。
作中では何度も更紗と文はお互い恋愛感情を抱いていないということが表現されています。
異性として好きということではないけれど、この世の誰よりも大切という感情はそういう体験を自分がしてみないと理解が難しいのかもしれません。
しかし文にも恋人がいるのに2人の邪魔はしないようにすると文との接触をやめようとしない更紗はなあ・・・、谷さんに同情してしまいました。
その谷さんも色々抱えているんですけどね。
亮と更紗のやりとりに自分の婚活時代を思い出す
亮はDV男なのであまり同情はできないのですが、亮と更紗のやりとりは自分の婚活を思い出しました。
前から結婚を考えていたような話を突然したり、気持ちが追い付いていない相手をおいてどんどん結婚後の生活の話をしたり。
シチュエーションは同じではないけれど、なんだか思い出してしまいました。
亮が更紗の仕事についてただのバイトと何の悪気もなく言ったのに対して、反発を覚えてしまう更紗の感じもわかりますね。
頼れる人がいるのはありがたいのに俺に任せておけばいいと言われると私は私で考えて生きていますからって言いたくなってしまうんですよ。(私が結婚できない理由の一つでもあるかもしれませんね・・・とほほ)
DVは許されないことですが、自分の親がしていて嫌だったことなのに大人になったら自分も同じことをしているみたいなこともわかるなあと思いました。
醜いと思う部分ほど似てしまうんですよね。
私も更紗と文を苦しめる周りの人間側かもしれない
更紗と文はお互いをなくてはならない存在のように思っていますが、15年という年月が経っても周りの人の2人を見る目は変わりません。
更紗は誘拐犯である文に今も洗脳されていると思われ、刑期を終えた文もいつまでも犯罪者という目で見られ続けます。
自分がこの物語のなかの登場人物であったなら、やはり更紗と文が一緒にいることはおかしいことだと考えたと思います。
この物語で更紗を悩ませ続けた気遣いという優しさで包まれた無理解をぶつけてしまう気がします。
周囲の善意や優しさを感じるほどに救われなくなっていく更紗が辛かったですね。
まとめ
更紗と文のことをおかしいと言えるのはその分少しだけ幸せなのかもしれません。(幸せという表現も適切ではないかもしれませんが)
世界には自分には想像できないようなことを抱えて生きている人がいるんですよね。
自分の常識と相手の常識は違うということを実生活のなかでも頭に置いておくことが大切だと思いました。
自分にとってこれが優しさだと信じていることが他人を傷付けることはあって、でもそれを完璧に避けられる人なんていないと思うので人との関係は難しいと感じました。
ネタバレになるので記事には書いていませんが小説を読めば文のことももっとわかるので未読の方はぜひ。
コメント