シリアスな話なのに読んでいると落ち着く。漫画『アンダーカレント』

漫画家 豊田徹也さんを知っていますか?

恐れながら私は今まで知らない漫画家さんだったのですが、今回紹介する『アンダーカレント』が映画化されたことではじめてその名前を知りました。

映画の主演は真木よう子さん、監督は今泉力哉さんです。

今泉監督は最近だと稲垣吾郎さん主演の『窓辺にて』が記憶に新しいでしょうか。

静かに水に沈む真木よう子さんのビジュアルをポスターや予告で観て気になっていたのですが、バタバタとしているうちに近所の映画館での公開が終了してしまい、それでも気になるので原作の漫画のほうを先に読むことにしました。

『アンダーカレント』の感想を調べると静謐(静かで落ち着いていること。また、そのさま。)と評している記事が多かったのですが、夫の失踪や児童誘拐殺人事件などシリアスな題材を扱っているのに読んでいると静かで落ち着くような感覚になる不思議な魅力を持った作品です。

目次

『アンダーカレント』情報

作品名アンダーカレント(全1巻)
作者豊田徹也
掲載誌アフタヌーン
出版社講談社
発売日2005/11/22

作者の豊田さんにとって唯一の長編漫画です。

海外でも人気が高く、2009年にはパリで開催された「Japan Expo」において「第3回ACBDアジア賞」を受賞、2010年にはフランス・アングレーム国際漫画祭のオフィシャルセレクションに選出されています。

また2020年にはフランスメディアで発表された「2000年以降の絶対に読むべき漫画100選」で3位に輝いています。

出版されて20年近く経っても評価され続けている作品なんですね。

『アンダーカレント』あらすじ

主人公の関口かなえは父から継いだ銭湯を経営しているが、夫・悟が突然失踪し途方に暮れている。

休んでいた営業をなんとか再開すると、堀という謎の男が「働きたい」とやってくる。

堀が働くようになってしばらくしたある日、かなえは買い物先のスーパーで友人・菅野と久しぶりに再会する。

事情を知った菅野から探偵の山崎を紹介されたかなえだったが、夫の知られざる事実を知るなかで自分が夫のことを理解していたのかという思いや心の奥に押し込めた感情が浮かび上がってくる。

『アンダーカレント』登場人物()内は映画のキャスト

  • 関口かなえ(真木よう子) 主人公。銭湯の女主人。夫の失踪の原因に心当たりがなく、戸惑いながらも営業を再開する。昔から誰かに首を絞められて水の中に沈められる夢を見る。
  • (井浦新) 組合の紹介でかなえの銭湯に働きに来た謎の男。朴訥としていて自分のことを語らない。
  • 関口悟(永山瑛太) かなえの夫。何の問題もない好人物として知られていたが、ある日突然姿を消す。
  • 菅野 (江口のりこ) かなえの友人。悟の失踪を知り、かなえに探偵を紹介する。
  • 山崎(リリー・フランキー) かなえが夫の調査を依頼する探偵。軽そうに見えるが言うことは鋭い。
  • 田島三郎(康すおん) かなえからはサブ爺と呼ばれている。近所で有名な変わり者のおじいさん。

堀が作中で35~36歳という記載があるので(かなえは堀の5歳下)、実写版のキャストは全体的にやや年齢が高めになっていますね。

山崎は作者の豊田さんがリリー・フランキーさんをイメージして作り出したキャラクターだそうです。

「人をわかるってどういうことですか?」

夫のことをわかっていると言うかなえに対し、探偵の山崎が投げかけるセリフです。

映画の予告でも象徴的に使われているセリフで、よくあるセリフではあるものの頭の中に引っかかるものがありました。

それは私自身が人に理解されたいのにしてもらえないという感覚を持って生きているからだと思います。

特にメンタル不調になってからは辛さを言語化しようとしても家族に「あなたの考えがわからない」と言われてしまい、また辛くなって・・・ということを繰り返し、なぜこんなに言っているのに理解してもらえないのだろうと悲しかったです。

他人ならまだしも家族なら自分のことをわかってくれて当たり前だと思っているところがあったんですね。

でも自分でも自分のことがわからなくなるのに家族だろうと自分以外の人に自分のことをよくわかってほしいというのは無理なのかもしれません。

かなえは山崎に問われて自分は夫のことを本当に理解していたのかと考え始めます。

徐々に夫の真実が明らかになっていくわけですが、それを知ったかなえがどのように変わっていくかも見どころです。

印象的なシーン

山崎の調査報告で、かなえは夫が出身地や両親について嘘を言っていたことをかなえは知ります。

ショックを受けて黙り込むかなえに山崎は「一曲歌いませんか?」と提案します。

山崎が報告の場として指定したのはカラオケ店でした。

当然そんな気分ではないかなえをよそに山崎はダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『裏切者の旅』を歌い始めます。

裏切者=かなえの夫を想像させますね。

唖然とするかなえでしたが山崎に押されてCharaの『Duca』を歌います。

はじめは探り探りという感じでしたが、徐々に歌の世界に入っていくかのように涙をにじませる場面も。

この『Duca』という曲、私は知らなかったのですがこのシーンの雰囲気を感じたくて聴いてみました。

曲調はコミカルな感じなのに歌詞には切なさがあり、かなえの心境に不思議とハマる曲になっているなと感じました。

この曲をチョイスする山崎はなかなかですね。

言葉にあらわせない感情は歌に代弁してもらう。

山崎の優しさを感じられるシーンで好きです。

「本当にゴメンネ。」

「大人になるとさびしいの?Duca?」

向かい風に恋人に似たにおいを感じて。

Chara『Duca』からの引用

まとめ

『アンダーカレント』を読んで、癒えない傷は誰にでもあるかもしれないけれど、日々自分と対話しながら折り合いをつけながら生きていくことを肯定してもらえているような気持ちになりました。

今回の記事では触れませんでしたが謎の銭湯手伝いの男・堀にもドラマがあって、堀は語らないキャラクターだけに一つ一つの表情や仕草から「このときはどう思っていたのだろう」と色々と想像しながら読みました。

悟とかなえの夫婦がどうなるのかは皆さんの目で確かめてみてくださいね。

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この記事を書いた人

駆け出しのブロガー。30代女性。気分変調症で療養中。社会復帰の一歩としてブログを始める。前職は医療事務。読書と映画鑑賞が趣味でオススメの作品を紹介。

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